金田邸は吾輩の煙草である。 あ、そうそうそれで分らなければ、好い事がある。 あと足をこうぶら下げては、鼠は取れそうもない、……どうです奥さんこの猫は鼠を捕りますかねと吾輩ばかりでは不足だと見えて、隣りの室の妻君に話しかける。 しかし僕のは竹刀だが、この鈴木将軍のは手暴だぜ。 ほんとに馬鹿だよこの人あ。 自分のために敷かれた布団の上に自分が乗らぬ先から、断りもなく妙な動物が平然と蹲踞している。 いえ御両人共御存じの事ですよと鼻子だけ大得意である。 純然たる天然居士の再来だ。 ところへ閑人が物珍しそうにぽつぽつ集ってくる。 行きたいところへ行って聞きたい話を聞いて、舌を出し尻尾を掉って、髭をぴんと立てて悠々と帰るのみである。 それについて、あなたに伺おうと思って上がったんですがねと鼻子は主人の方を見て急に存在な言葉に返る。 意志の罪でない以上は西洋料理などを奢る理由がないと威張っているのさ しかし智識以上の珍宝が世の中にあろうか。 　忍び込む度が重なるにつけ、探偵をする気はないが自然金田君一家の事情が見たくもない吾輩の眼に映じて覚えたくもない吾輩の脳裏に印象を留むるに至るのはやむを得ない。