向う横丁の鼻がさっき押しかけて来たんだよ、ここへ、実に僕等二人は驚いたよ、ねえ苦沙弥君うむと主人は寝ながら茶を飲む。 この時のみは非常に丁寧な撫で方であった。 元来吾輩の考によると大空は万物を覆うため大地は万物を載せるために出来ている――いかに執拗な議論を好む人間でもこの事実を否定する訳には行くまい。 たしか娘の縁辺の事につきましてもいろいろ牧山さまへ御心配を願いましたそうで……へえー、そうですかとこればかりは迷亭にもちと唐突過ぎたと見えてちょっと魂消たような声を出す。 いかに自炊の仲間でも十年も逢わなければ、何となく気のおけるものだが迷亭君に限って、そんな素振も見えぬのは、えらいのだか馬鹿なのかちょっと見当がつかぬ。 しかし忍ばねばならぬだけそれだけ猫に対する憎悪の念は増す訳であるから、鈴木君は時々吾輩の顔を見ては苦い顔をする。 迷亭と主人は思わず顔を見合わせて沈黙する。 王様はまだ未練があったと見えて、余った三冊をいくらで売ると聞くと、やはり九冊分のねだんをくれと云うそうです。 それについて、あなたに伺おうと思って上がったんですがねと鼻子は主人の方を見て急に存在な言葉に返る。 なるほど少し妙だねと鈴木君はどこまでも調子を合せる。 問い正すなんて、君そんな角張った事をして物が纏まるものじゃない。 仮令勧めないまでも、こんな事は本人の随意にすべきはずのものだからね。 但し生きているうちに張付けに致したものか、死んでから釘を打ったものかその辺はちと分りかねます……そんな事は分らんでもいいさと主人は退屈そうに欠伸をする。 しかるについ両三日前に至って、美学研究の際ふとその理由を発見したので多年の疑団は一度に氷解。