まさか。 苦沙弥君、君にしてそんな大議論を舌頭に弄する以上は、かく申す迷亭も憚りながら御あとで現代の文明に対する不平を堂々と云うよ それが大きな了見違いさ。 またかんかんか、君のかんかんは一度や二度で済まないんだから難渋するよと今度は迷亭が予防線を張った。 私も存じませんで失礼しましたアハハハハと迷亭君は遠慮なく笑ってると、門口をあらあらしくあけて、頼むとも、御免とも云わず、大きな足音がしたと思ったら、座敷の唐紙が乱暴にあいて、多々良三平君の顔がその間からあらわれた。 思い切って、切ってしまえ ――がどうでしょう先生と東風君は相変らず真面目で迷亭君の方へ向き直った。 それが本因坊流、金田流、当世紳士流さ。 いけるかも知れないが、貰わないね しかし順当が永く続くと定めし退屈だろう。 いいかい。 どうして借りた金を返さずに済ますかが問題である 人間全体の運命に関する社会的現象だからね。 それで人迹稀なんですかと正面攻撃を喰わせる。