アルコール中毒に罹って、ああ酒を飲まなければよかったと考えるようなものさ それも最初の三四十目は、石の並べ方では別段目障りにもならないが、いざ天下わけ目と云う間際に覗いて見ると、いやはや御気の毒な有様だ。 主人はもったい振った口調で、こんな議論を始めた。 どうか御遠慮なくと寒月君が云うと、主人は いきなり、毛布を頭からかぶって、ヴァイオリンを小脇に掻い込んでひょろひょろと一枚岩を飛び下りて、一目散に山道八丁を麓の方へかけ下りて、宿へ帰って布団へくるまって寝てしまった。 あんな作品はあんな個性のある人でなければ読んで面白くないんだから仕方がない。 ヘンレーと云う人がスチーヴンソンを評して彼は鏡のかかった部屋に入って、鏡の前を通る毎に自己の影を写して見なければ気が済まぬほど瞬時も自己を忘るる事の出来ない人だと評したのは、よく今日の趨勢を言いあらわしている。 夜具の中から首を出していると、日暮れが待遠でたまりません。 思い切って飲んで見ろと、勢よく舌を入れてぴちゃぴちゃやって見ると驚いた。 床の間なしの四畳半くらいにしておく方が写生的で面白いと迷亭君も苦情を持ち出した。 慰藉されなくても寒月君は無論話をつづけるつもりである。 何里くらいあるんですかと聞いた。 いつの間に御帰りですか 人間とはしいて苦痛を求めるものであると一言に評してもよかろう。